ロシアの市民団体が声明
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【モスクワ=田川実】「メモリアル」「市民社会のための基金」などロシアの人権・市民団体は九日までに、チェチェン問題と学校占拠・人質事件など一連のテロ事件の関連を指摘するとともに政府に新たなテロ対策を求める共同声明を発表し、インターネットなどを通じて賛同者を募りました。すでに諸団体代表二百人以上が共同声明に賛同を表明しています。
声明は、プーチン大統領が打ち出した治安機関の新たな強化、改革について、国民的な議論を含め「社会に対し最大限、透明性を保って立案、実施を行う」よう注文。学校占拠事件に関する議会調査委員会の設置も提案しました。
また声明は、特に治安機関の再編、強化だけではテロ対策は不十分であることを指摘。諸事件を国際テロ集団の犯行とする政府に対し、「テロの増大とチェチェンおよびその周辺の状況が密接に関連していることを認める時だ」と迫っています。
声明は、「チェチェン共和国で法を順守した治安機関の行動、民間人への重大犯罪を犯したものの告発、見せかけでない真の社会、政治、経済状況の正常化が実現して初めて、テロの基盤を崩すことができる」と強調しています。
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ロシア政府の対応批判
国際人権団体が声明
【ロンドン=西尾正哉】アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウオッチなどの五つの国際的人権団体と「人権のための全ロシア運動」などロシアの三つの人権擁護団体は八日、ロシア南部の北オセチア共和国の学校占拠事件でロシア政府は事件の真相を隠そうとしたと非難する国際共同声明を発表しました。
声明は、武装グループが子どもを含む多数の人質を取り、多くの人々を犠牲にしたことを、「生存という最も基本的な権利への攻撃だ」とし、「最も強い言葉で非難する」と指摘しました。
その上で、「ロシア当局が人質の人数に関し誤ったデータを提供するなど危機の大きさを隠ぺいしたことに重大な懸念を表明」するなど当局の対応を批判。続けて人質事件の真相究明のための調査を行い、その結果を公表するようにロシア当局に求めました。
また声明は、テロ事件の首謀者などを裁判にかける際には国際的な人権基準に従うように求めました。
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解説
危険な先制攻撃の拡散
ロシアのバルエフスキー参謀本部長は八日、北オセチア学校占拠事件を受け、外国のテロリスト拠点への先制攻撃の用意があると発言しました。これは、ブッシュ米政権が先制攻撃戦略を掲げたことにより、先制攻撃という主張が国際的に「拡散」しつつあることを示す重大な動きです。
ロシアは、昨年十月に発表した新軍事ドクトリンで、先制攻撃を前面に押し出しました。地域紛争や国際テロに対し「戦略的抑止力の限定使用もありうる」とし、対テロ攻撃で核兵器を使う可能性も表明しました。
これは、米国が二〇〇二年の国家安全保障戦略などで核先制攻撃を含む先制攻撃戦略を掲げたことへの対抗措置でした。
米国の先制攻撃戦略の表明には、早くから他国も同じ路線をとる先例になるとの批判が出ていました。ロシアの態度表明は、この批判を裏づける、危険極まりない動きです。
国連憲章は、安全保障理事会が措置をとるまでの各国の自衛権の行使を認めています。米国は、先制攻撃が自衛権に属すると強弁しています。しかし、この主張に基づいて強行した対イラク先制攻撃戦争に何の正当な根拠もなかったことは、国際的にも明らかになっています。
先制攻撃の拡散を許してしまえば、「戦争のない世界」をめざし、武力不行使や国際紛争の平和的解決をうたった国連憲章の世界平和のルールと、国際政治での「法の支配」が崩壊してしまいます。アナン国連事務総長は〇三年九月、国連総会での公式演説で、先制攻撃戦略は、国連憲章のもとで「世界の平和と安全が依拠してきた原則への根本的挑戦だ」と厳しく批判しました。
(坂口明記者)