「98年建築基準法の改正」の審議の過程において、至極まっとうな問題点の提起がなされ、それに対しいかにいい加減な約束がなされたか・・・、その事実を知ることは重要であるし、大いに問題視されるべきであると思う。イラク戦争の開戦理由(および支持理由)同様その問題点の核心をなぜこうもあっさりと無視できるのか。そうでなければ同じような問題は今までと同様何度でも繰り返されることになる。
以下、転載記事非常に興味深かった。
[JCJふらっしゅ]2005/12/25 935号
http://blog.mag2.com/m/log/0000102032/106788891?page=1#106788891
◎◎症状報道のみでなく病因の解明を───耐震構造偽装問題◎◎
中村有朋 元公務員(73歳)
1 核心を衝いた水島教授の指摘
[JCJふらっしゅ]929号(12月19日付)は、「おすすめHP」として水島朝穂・早大教授のHP[1]を紹介した。
そこには「『押しつけConstitution』の効果」と題して、耐震構造偽装問題についての解説が載せられている。
この問題は11月以来、連日、テレビや新聞、週刊誌などでにぎやかに報道されている。しかしなぜこんな重大な事件が起こったのか、原因はどこにあるのか、どうしてジャーナリズムはもっと突っ込んだ解明をしないのか、と歯がゆい思いをしていたが、水島教授の分析はずばり本質を衝いたものであり、まことに適切な指摘であった。
すでにお読みになった読者も多いと思うし、まだの方はぜひご一読いただきたいが、あえて教授の指摘の核心部分を引用すれば、つぎのとおりである。
「米国による『押しつけ構造』による確認検査業務の民間開放を行った98年建築基準法の改正にこそ問題の根っこがあるように思う。確認検査業務を『官から民へ』移行した結果、確認検査業務の構造的手抜きが可能となった。その意味で、指定確認検査機関を生み出した建築基準法改正に関わった人々の責任もまた問われてよい」
2 問題の所在
偽装耐震設計で欠陥建築物が建設された経緯を見れば、建築主、コンサルタント会社、設計者、下請構造設計者、施工業者、指定確認検査機関などが、それぞれ利害関係を複雑にからませながら問題に関与しており、責任の所在についてはひとつひとつの案件ごとに厳正な解明が必要であろう。
しかし、問題は、個々の建築士や設計事務所や建設会社が、たまたまもうけ第一主義の害悪に毒されていたというにとどまらず、効率と利潤の追求を至上命令とし、自らの業務の公共的性格、社会的責任をないがしろにする風潮が業界にはびこり、関係者ぐるみでつぎつぎに欠陥建造物をつくり販売したという、まさに「構造的な」原因からこの事件が発生したというところにある。
その原因、つまりこれだけ大きな社会問題(症状)を生起させた病因はどこにあるのか、少なくともその主要な一つが、水島教授の指摘されるように「確認検査業務の民間開放を行った98年建築基準法の改正」にあったことは、次項以下に述べるように法改正の経過を調べてみれば一目瞭然である。
つまり、建築確認制度の性格を、監督・規制型から当事者責任型に移行させた民間開放に主病因のひとつがあり、民間開放に伴う弊害発生が法改正当時予見可能であったにもかかわらず、これを防止するための有効・適切な措置を講じなかった国の怠慢に他の病因のひとつがある。
しかしながら、このことに着目し、調査し、報道したメディアがいったいどれだけあったであろうか。
私は主要新聞のすべてに目を通したわけでもないし、主なテレビ局の報道をモニターしたわけでもない。その点で、限局された見聞範囲からの立言であることについてあらかじめおことわりしておきたいが、管見に入った限りでは、以上に述べた視角から問題を取り上げたのは『しんぶん赤旗』の一連の報道・解説と、12月13日のテレビ朝日『スーパーモーニング』くらいしかないように思われる。
3 偽装問題の発生は法改正のときに既に予見可能だった
それでは、98年建築基準法改正の際の衆参両院の委員会審議の会議録を調べてみよう。(以下、たとえば、衆議院建設委員会1998年5月15日の記録は「衆建980515」、参議院国土・環境委員会1998年5月28日の記録は「参国環980528」のように記す)
(1) 建築確認制度の性格に関する言及
● 参考人として招致された弁護士・新里宏二氏[2]はつぎのように述べ、建築確認を民間開放することについて明確に反対の意見を表明している。(衆建980520)
「確認・検査業務というのは、薬の行政と同じように、官として責任を持ってやる分野ではないか」「欠陥住宅被害というのが社会問題になってきた中では、まだまだこの部分のプロとして行政のいわゆる信頼というものがあるのだと私は理解をしております」
● 中島武敏議員は国民の命と財産を守るのは誰の責任かという問題として取り上げて、つぎのように主張している。(衆建980515)
「阪神・淡路の大震災があった、これの教訓に照らしても、必要な規制は行うというふうにして国民の命と財産を守る、このことが国の重要な責任である」
(2) 建築確認機関の営利追求が欠陥建築物を発生させおそれについての言及
● 参考人として招致された日本福祉大学教授・片方信也氏は、「建築確認検査のあり方は、建築の公共財的性格をいかに確保すべきかという課題と深くかかわってい」る、と指摘したうえで、つぎのように述べている。(参国環980602)
「民間の特定確認検査機関へその業務が開放されることになりますと、営利機関の場合は市場競争の論理が優先し、建築の申請について個別的条件を基本に公共財として建築されるように必要な条件を十分にチェックする業務が採算に乗りにくいとか、あるいは多数の件数を処理するという理由などで十分に行われない可能性がこの法案では完全に排除できず、しり抜けになるのではないかと危惧されます」
(3) 確認検査機関の「第三者性」と行政機関によるチェックの必要性についての言及
● 参考人・新里宏二氏はつぎのように述べている。(衆建980520)
「営利を追求する団体で公正な確認、検査が期待されるのかどうかという疑問が残ります。(中略)確認業務につきましては、(中略)『民間企業が参入するにはリスクが大き過ぎる』のではないかというふうなことが日経アーキテクチュア等で指摘されております。(中略)ハウスメーカー等が共同で出資をして、みずからの住宅の確認・検査機関をつくっていく、そういう危険性、危惧の念が払拭できない。いわゆる公正さが疑われる状況がないのかどうかということについて極めて疑問が残るところでございます」
● 斉藤鉄夫議員は「あるゼネコンが施工した建築構造物を、そのゼネコン出身の人が現実的にやっている指定確認機関が検査をするというふうなことも当然考えられるわけで、その場合の第三者性というのは一体どうなるのだろうか」と疑問を呈している。(衆建980515
)
● また緒方靖夫議員は「建築確認検査の体制の拡充は必要であり、そのために行政の適切な監督のもとに公正中立な民間機関の力を活用することを一切否定するものではありません。しかし、改正案では公正中立の保障が十分ではなく、大手建設業者やハウスメーカーの息のかかった確認検査機関が生まれることが予想されます。こうした機関に建築物の検査を任せ検査結果について行政がチェックする仕組みもない制度では、検査に対する信頼性を確保できません」という反対意見を述べている。(参国環980604)
(4) 建築士の独立性と行政機関によるチェックの必要性についての言及
姉歯秀次元一級建築士は、去る12月14日の衆議院国土交通委員会における証言で、木村建設からの圧力に抗しきれなかったことについて「(偽装を)やらないと生活ができない状態だった」と証言したが、このような事態が発生する可能性についても、指摘されている。すなわち、
● 緒方靖夫議員の発言(参国環980528)
「経済的な関係で建築士の独立性がきちっと保障されていない(中略)こうした状況について有効な対策がないならば民間の検査機関についても同様な事態が起こる、そういうおそれが十分予想されるわけです。それで、これを防止するためには民間指定機関による確認検査について行政のチェックがきちんとなされる、これがやっぱり不可欠になると思います。改正案では、(中略)確認についても、指定検査機関から建築主事に報告はあるけれども、必ずそれを建築主事がチェックすることにはなっていないわけです。そうすると事実上民間任せになってしまう」
4 国は所要の措置を講じることを約束していた
以上のように、法改正案審議の過程で、建築確認の民間開放に伴う重大な疑問が提起されていたのであるが、建設省側の認識はきわめて甘いものであった。一例を挙げると、
● 建設省小川住宅局長(衆建980515)
「民間同士が安値競争でというふうな御懸念でございますが、実は私どもの現在考えております悩みというのは、いかにして立ち上げるかというふうな、マンパワーをどこから集め、どういった形で、第一義的な形で民間の確認検査機関をつくり上げて育てていけばいいかというふうなことが頭の中の八割方、九割方を占めておりまして、先生おっしゃるような過当競争に近い状況が起こることがもしあるならば、過当競争じゃ困りますが、その一歩手前で適正な競争が行われることはすばらしいことだと思っております」と、まことにのんきなものである。
しかし、上述のように議員、参考人から数々の疑念が表明されて、さすがに政府側も一定の約束をせざるを得なかった。
(1) 確認検査機関の「第三者性」確保に関する約束
● 瓦力・建設大臣(衆建980515)
「非常に高度な、公正な第三者性というものを確保していくということは本法にとりましても大変重要なポイントになっていくのだろうと思っております。(中略)厳格な第三者性の確保、(中略)公正中立な審査体制を確保することが不可欠である、資本関係でありますとか、役職員の兼職、兼業の状況について厳格な審査を行うこととしておるというような点も十分に御理解をいただきたいと思いますし、運用についての準則を定めることによりまして判断基準の明確化を図ります」
● 建設省小川住宅局長(衆建980515)
「(指定確認検査機関の)組織構成の問題としての中立性、それから業務運営のありようとしての公平性というふうなものは制度上担保させていただきたい」「資本構成において、役職員の構成において、特定の企業がある建築確認機関に対してどれだけの影響力を持っているのかというふうなことが恐らくチェックのポイントになると思います。そういうふうなものについて、では何がどの程度ならば大丈夫なのかというふうなことは、基本的には運用準則というふうな形で判断基準は体系化したいと思います」
「(設計事務所とか建設業者とか、特定の業者の支配力が実質的にあるかないかということについての判断基準は)明確化を図るための運用準則というのをつくる必要はあるだろうというふうに思っております」
(2) 特定行政庁による監督・確認の確実性保障に関する約束
● 建設省小川住宅局長(衆建980515)
「(建築主事やその職員の増員など体制を強化して十分なチェック体制を確立することについて)行政としての建築行政の実力をもう少しぴしっとしたものにつくり上げていく」
5 国は所要の措置を講じたか
見られるとおり、法改正の審議に当たり、繰りかえし議員や参考人から懸念が表明されたことがらの一つは、指定確認検査機関の「公平性・第三者性」、すなわち、国民の命と財産を守るという公共的な仕事を遂行するため、営利追求という民間企業の行動原理の悪影響を受けないよう、制度的、組織的、機能的保障をいかにして確立するか、ということにあり、国(建設省)は「準則を定めて公平性を担保し」また「行政としての建築行政の実力をもう少しぴしっとしたものにつくり上げ」る、と約束していた。
しかし、結果はどうであったろうか。
たとえば去る12月14日の、衆議院国土交通委員会での姉歯証人の発言に耳を傾けてみよう。
姉歯氏は「偽装は構造のプロが見ればすぐわかると思ったが、建築確認申請を民間確認機関が承認したので、書類や図面を見ていないと思った」と証言しているではないか。
また法改正時の建設大臣は「資本関係などに着目して公正中立な審査体制を確保する」と明言していた。
ところで、結果はどうであったろうか。
民間の指定確認検査機関である日本ERI、西日本住宅評価センター、東日本住宅評価センター、都市居住評価センターなどに対する出資企業には、ミサワホーム、大和ハウス工業、パナホーム、三井ホーム、積水化学工業、大阪ガス、東邦ガス、東京ガス、京葉ガス、静岡ガス、大林組、鹿島建設、鴻池組、清水建設などなど、ゼネコン、ハウスメーカー、設備機器販売関連のガスや電力会社がずらり並んでいる。[3]
建設省は建設関連企業による民間検査機関の株式保有を最大三分の二までみとめているが、これだけの出資が認められていれば、民間確認検査機関の中立性が担保されないことは、専門家の指摘するところである。[4]
国は、建築基準法改正に当たって、国会と国民に対して約束したことを実効的に実施していない疑いが濃厚である。
6 建築基準法改正に関わった人々の責任
耐震構造偽装問題は、建築主、コンサルタント会社、設計者、下請構造設計者、施工業者、指定確認検査機関などがぐるになって多くのマンション住民やホテル経営者などに莫大な損害をもたらし、社会に大きな衝撃を与えた。この事件を引き起こした者たちに対する厳正な捜査と司法処分が行われ、また民事責任の追及がなされるべきことは論をまたない。
しかし、同時に水島教授の指摘にある如く、米国による露骨な内政干渉を受けつつ、各種公的規制を緩和・撤廃し、その一環として建築基準法を改悪し、国会審議過程での公約の適切、有効な実行を怠り、今回の事態を招いた政府の責任は重大である。
また、法改正の過程で、「この建築基準法の改正、規制緩和の流れに沿って、(中略)制度とか枠組みを規制緩和へ向けてつくっていくという上では大変にすばらしい改正の考え方であろう」[5]とか、「今回の改正は、(中略)ここまで改正されたということは、本当に新しい行革あるいは規制緩和という点からも非常に評価をされていいんじゃないか(中略)、大臣初め大変な指導力でここまで来たということに敬意を奏(ママ)させていただきたい」[6]などと、手放しで賞賛した議員の政治責任が問われなければならない。
さらに、「確認の民間移行をするのだったら、いっそ建築士事務所の自主確認を認めて、責任をより明確に負わせるという考えはないでしょうか。(行政によるチェックなど)屋上屋を重ねて時間がかかったり、責任が不明確になるよりは、直接責任を果たす方がいいのではないか」[7]とか、「指定確認検査機関をつくる以上は、できるだけ行政がこの中へ入ってチェックしないように、民間指定機関の責任で建築完了検査までやるということで初めて緩和になるわけであります」[8]などと、国と地方公共団体の責任を放棄する方向での規制緩和を、もっとやれ、もっとやれ、と囃し立てた人たちの政治責任も明らかにすべきではないか。
7 国民はもっと事実を知りたい
ノンフィクション作家・関岡英之氏は、その著書[9]で98年建築基準法改正に言及し、この法改正は「阪神・淡路大震災をきっかけとした、建物の安全性への国民の不安のたかまりという現実と、どう考えても矛盾する」[10]、「むしろそれに逆行する」[11]ものであった、と述べている。
そのうえで関岡氏は、この改正が、アメリカ通商代表部が毎年日本政府に対して提起する「年次改革要望書」なるものに基づいて発案されたものであること[12]、アメリカの「要望」は単に建築基準法での規制緩和にとどまるものではなく、「個別産業分野としては農業、自動車、建築材料、流通、エネルギー、金融、投資、弁護士業、医療・医薬、情報通信など、分野横断的なテーマとしては規制緩和や行政改革(中略)などが網羅され」[13]、結局「日本の制度をアメリカにとって都合のいいものに変更するよう、アメリカ側が一方的に日本に要求する」[14]という露骨な内政干渉の産物の一つであった、と指摘している。
耐震構造偽装問題、ここにはアメリカが求め日本政府が追随した「構造改革」、「規制緩和」、「民間開放」が、ひょつこりその素顔の一部をあらわしているのではなかろうか。
「グルになり悪事バレたら仲間割れ」(宮城 はむすたあ)。
12月23日付『毎日』に掲載された川柳である。
建築業界で悪い連中がグルになってはびこる社会的土壌をつくったのは、いったい誰か。国民はそれを知りたい。いや、国民にはそれを知る権利がある。
国会議員には国政調査権をフルに活用して、この問題を解明する義務がある。
同時に、国民は真実を全面的に明らかにするために、ジャーナリズムがペンの力を大いに発揮してくれることを期待している。
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[1]http://www.asaho.com/jpn/index.html
[2]日本弁護士連合会消費者問題対策委員会副委員長
[3]『しんぶん赤旗』11月25日
[4]同上、一級建築士・新井啓一氏の談話
[5]川内博史議員、衆建980515
[6]上野公成議員、参国環980528
[7]高市早苗議員、衆建980515
[8]吉田公一議員、衆建980515
[9]「拒否できない日本───アメリカの日本改造が進んでいる」、文春新書、
2004年4月
[10]同上、44頁
[11]同上、46頁
[12]同上、47頁〜50頁
[13]同上、53頁
[14]同上、66頁
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それにしても、コイズミ氏は、この問題にはまったく言及せず、云わないことによって、連立与党の某党に圧力をかけ、「憲法九条改正は必要」と云わせて自らの立場を強化しちゃうんだからヒドイことになりましたな〜。
いつもコメントありがとうございます。
退院後、まもなく1ヶ月になろうとしているのに今ひとつ体調すっきりせずイライラしておりましたが、お蔭様でここにきてようやく本来の体調戻ってきました。やはり年でしょうかねぇ。
コイズミ批判にも頑張って声を上げなければいけませんね。